歯が欠けた

歯が欠けるおもな原因は転倒や衝突、事故、暴行などさまざまです。
多くは普段の生活の中で発生します。

衝突や転倒などによる外傷は前歯に多く、見た目や発音に影響しやすいのが特徴です。
小児においては衝突などによる外傷、成人になるとスポーツにおいての外傷が増えます。
そのため、スポーツマウスピースの着用が推奨されるスポーツの種類が増えてきました。

また、事故などのケースにおいては頭部、顔面への外傷などがあればそちらの処置が優先されます。
できるだけ歯を保存することが推奨されますが、損傷が激しく治癒が難しかったり、まわりの歯への悪影響などが考えられる場合は抜歯の適応になります。

動揺とは、歯が脱臼、または亜脱臼してぐらぐらと揺れている状態です。
歯根膜など、歯と歯槽骨をつなぐ歯周組織が傷つき歯槽骨から歯が浮き上がったような状態になっています。
このような状態は固定することで元の状態に戻る可能性があります。

しかし、歯冠と歯根の間が割れる形で破折していても動揺する可能性があります。
そのような場合は固定しても元の状態には戻りません。
レントゲンを撮り、そのような状態だと確認されれば、歯冠を除去し歯根だけを残し、差し歯にするなどの処置が取られます。

力のかかり具合によって、歯の位置がずれたり、めり込むように埋入したりすることがあります。
このような場合は、歯を元の位置に戻したあと、動揺と同じように固定を行い、安静にします。
歯周組織が回復すれば元の状態に戻る可能性があります。

また生えたての永久歯は埋入が起こっても自力でもう一度伸びてくる可能性が考えられるため、とくに処置を行わず待つこともあります。
ただ、外傷の度合いによって修復が難しいケースもあります。

歯のエナメル質は大変硬い反面、衝撃に弱く割れやすいという特徴があります。
破折が起こった時に、一番最初に見るのは神経に達しているかいないかです。
神経に達さない破折は、コンポジットレジンなどのプラスチックで修復することができますが、神経にまで達してしまうと、神経を取らなくてはいけません。

また破折でも、横に破折した場合と縦に破折した場合で対応が異なります。
大きく縦に割れてしまった場合は修復が難しく、抜歯になるケースが多いです。

歯が外傷の衝撃により完全に抜け落ちてしまった状態です。
抜け落ちてすぐは、歯のまわりの歯周組織はまだ生きているため、再植といって、抜け落ちてしまった場所にもう1度戻せば元通りになる可能性があります。
しかし、歯に大きな破折があると難しいなど、条件が整っていないと予後が悪いケースもあります。

頭部への外傷がある場合は、脳外科などを受診します。
とくにお子さんは自分の状態を上手く説明できない可能性も考えて、反応の様子や吐き気などがないかなどのよく様子をよく見ておきましょう。
その上で歯に外傷が認められる場合は、まずは口腔内の応急処置を行います。

まずはどこから出血しているのか目視で確認します。
出血点が確認できたら、出血部位をうがいなどできれいにし、ガーゼで圧迫します。

もし、埋入や転移がある場合でも無理に戻そうとせず、できるだけそのままの状態で歯科医院にかかります。
亜脱臼に近い埋入や転移の場合は、早めに歯科医にかかると予後が良好になることが多いため、早めの受診が望まれます。

もし、出血などがなく歯が欠けてしまった場合も、できるだけ早く歯科医院を受診しましょう。
放置すると神経が死んでしまい、失活歯となってしまうこともあります。

歯が脱落している場合は 歯を洗わずに、牛乳につけるかラップに包むなどして乾燥させないようにして受診してください。
もし、生理食塩水がある場合はそれを使用して保存するのが一番よいのですが、普段の生活で生理食塩水を常備している方も少ないと思われるため、牛乳やラップで代用します。
ご来院は30分以内が望ましく、1度乾燥してしまうとまわりの歯周組織が回復せず、うまく口腔内に再植できないケースが増えます。

また、水洗いもしないでください。
浸透圧の関係でまわりの歯周組織がだめになってしまいます。

もし破折した場合は、破折片を探してご来院時にお持ち下さい。
コンポジットレジンの修復などで修復できる場合があります。
大きく欠けた場合はこのような処置は望めませんが、小さくきれいに欠けた場合はその破折片を使って元の形に戻せる可能性があります。

もし全身状態に問題がなく、歯の外傷だけなら、すぐに歯科医院を受診するようにしましょう。
処置の速さが予後を左右します。
また、どのような状態でケガをしたのか分かるとより診療がスムーズです。

●固定や再植

大きな破折のない転移や埋入、脱落は、元の状態に戻して固定すれば再度歯周組織と歯が結合する可能性があります。
そのため術野を消毒し、脱落の場合は持って来ていただいた歯をきれいにし、歯が抜け落ちてしまった場所に再植します。

埋入や転移においてもきれいな位置に整え（整復）、レジンやワイヤー、ボンドなどで固定を行います。
この固定は暫定的なもので、もし歯が元に戻れば外せるようなものとします。

また、脱落した歯は場合によっては神経を抜いて失活歯とし、再植することもあります。
歯根が未完成な永久歯の場合は、歯根の完成と同時に再度の歯周組織への結合が起こりやすいため、処置がうまくいくケースが多いです。

●修復

それほど大きくない破折は、コンポジットレジンで修復します。
破折が大きく、神経を取る処置になると コンポジットレジンで修復できないためあくまで神経のある歯の、 少しの欠けに対して行われます。

まず、必要であれば麻酔を行い、術野を消毒します。
歯の欠けた部分に接着剤を塗り、コンポジットレジンを盛り上げ、元の歯の形に修復します。
もし欠けたものをお持ちの場合は、コンポジットレジンなので再度くっつけることができる可能性もあります。

破折が大きい場合は、神経を取る処置になります。
神経を取る処置になった場合は、歯にコアという支台を立て、上から被せもので覆います。
歯根だけが残った歯も同じ処置をします。

●抜歯

破折の程度がひどいと抜歯になります。

また、脱落して時間が経っていたり、歯槽骨自体に大きな損傷があると抜歯になる可能性が上がります。
必要であれば、顎の骨の固定や軟組織の縫合処置を行うこともあります。
また、再植しても歯と歯周組織が結合しない場合も抜歯処置になります。

●当院にお越しの際の注意点

当院では予約制を導入しています。
緊急の場合はその限りではありませんが、歯科医院のユニット数には限りがあります。
そのため、急にお越しいただいた時にユニットが塞がっていると、待合室でお待ちいただくことになります。
事前にお電話をいただき、何時頃のご到着かお伝えいただけることで、計画的にお通しできるユニットを開け、よりスムーズに診療に入ることができます。

また、どのような外傷の状態の方に対しても、受傷した経過や全身の既往歴、病歴などに対する質問など、基本的な問診を行います。
すぐにお答えいただけるように事前にまとめておいていただけるとやりとりがスムーズになります。
その後、必ずレントゲンを撮ります。
すぐ処置に入らず気持ちが焦る患者さんもいらっしゃるかもしれませんが、よりよい診療と予後のために必要なことです。
ご協力いただけますようよろしくお願いします。

●予後、失活するケース

歯の再植や神経を残した修復をしても、後日神経が失活してしまう可能性があります。
歯自体はまわりの歯周組織と結合しても、神経に対する栄養供給がうまくいかないケースです。
歯はその場に再び結合されているので、問題はないと思いがちですが、栄養供給が止まることによって茶色く変色しはじめ、衝撃にも弱くなります。
この場合は神経のあった根管を清掃し、 割れてしまわないように全体を被せ物で覆います。
外傷を受けてしばらくは注意深く観察しておく必要があります。